あるエンジニアのひとり旅

大企業を辞めたエンジニア、研究者のちょっとした日記

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大企業を退職しましたが、転職しませんでした。

20143月をもって10年近く務めた大手総合電機メーカー(A社)の研究所を退職した.現在,無職.不安もあるが,すごく楽しみ.日本の大企業(製造業)に共通で言えることだという思いから,会社名は出さないことに決めた.無名なソフトウェアエンジニアが退職前後に感じたことの備忘録である.

 

(1) はじめに

10年近く務めた大企業を退職した.「大企業の外の方がおもしろい,自分でしかできないことに挑戦できる」と感じるようになったのだと思う.

私は研究開発に携わりたかったため,研究開発に力を入れているA社の研究所に入社した.最先端の研究で成果を出し,その研究を製品化することを目標としてきたが,先行的な研究開発をできない日々が続き,目標を見失しなった.A社内で新たな目標を持つことができなかったとき,既に興味は外に向いていた.

 

(2) 日本の大企業のメリットとデメリット

日本の大企業で働くことのメリットは,よほどのことが無い限り解雇されない,給料がそこそこ良い,大きなプロジェクトに携わることができる,物凄く優秀な人がいる,多種多様な分野の専門家がいるため大抵のものは創ることができる,教育制度が充実しているといったところだろう.

メリットの反面,デメリットもいろいろある.会社,部署によるが,日本の大企業は基本的に先行投資が苦手である.多くのプロジェクトで,完成した製品を売り込むのではなく,受注を取ってから顧客の細かな要求に答えながら開発を進める.顧客の要求にその都度答えるため,顧客対応に大半の時間を費やしてしまい,先行的な研究開発の時間を確保できないのが実情である.もちろん先行投資型のプロジェクトも存在する.しかしながら,受注先行型のビジネスのプレッシャーに耐えられない人,顧客要求に答える十分なアウトプットを出せない人を先行開発に充てざるを得ない場合が多く,結局は先行開発が進まない.その結果,受注先行型を繰り返すといった自転車操業に陥りがちだ.

日本の大企業で働いて,エンジニア,研究者が顧客の前に直接出すぎだと感じた.もちろん顧客のニーズは非常に重要なことではあるが,エンジニア,研究者の仕事内容の質の低下に繋がり得る.付き合いのあったアメリカの某半導体メーカーは,日本法人の営業,さらに商社を通して顧客と会話することで,エンジニア・研究者の仕事の質・労働環境を維持していた.日本の企業は,従業員が辞めることに対して危機意識が不足しているのだろう.

日本有数の大企業の研究所は,やっぱり凄い!と思える環境ではなかった.優秀な人の割合が低い.降格が無いことも研究者の質の低下の要因になっているだろう.主任,課長といった現状に満足してしまい,向上心を無くしてしまっている人が多いと感じる.論文を積極的に読んで,先端技術の勉強を継続している人がどのくらいいるのだろうか?

また,杓子定規な評価制度や,過剰な規則が,自由な雰囲気を阻害してしまい,組織に属するとこをつまらなく感じさせている.最近は,実力,成果に対する評価のウェイトが高くなったとはいえ,○○経験が2年以上,TOEIC×××点以上,勤続何年以上ということがキャリアアップの条件に含まれる.日本の大企業に,若き日のAppleのスティーブ・ジョブズ,GEのジャック・ウェルチのような人材がいたとしても,紙を見ながら「彼に社長を任せるには事業部経験が足りない.まずは2年間事業部に行ってもらい,その後に課長に任命しよう.」ということになるだろう.

日本の大企業も,グローバル化に伴い組織の改革を進めてはいる.が,改革のスピードが遅い.同じ会社でずっと働き,年功序列制度で出世の階段を一段一段登って来た人に,組織の抜本的な改革,優秀な人材の抜擢ができるとは思えない.部長以上は優秀で,人間性も優れた人ばかりだ.それでもできるとは思えない.

 

(3) 日本型雇用の弊害

働かない人を雇い続けることほど企業にとって無駄なものはない.働かないだけならまだしも,周囲のモチベーションの低下につながる.そして働かない人と,超優秀な人の給料の差はせいぜい2倍程度であろう.

終身雇用制度が雇用を守っているとは思えない.働かない人を雇い続けることが,雇用を守っているとは言えない.既得権を得た社員を守る代わりに,若者が就職する機会を犠牲にしているだけだ.昔であれば大企業に入れた人材が,大企業に就職できなくなる.その玉突きで正社員になれた人材が非正規雇用の不安定な仕事でがんばっている.そして,日本の大企業の雇用制度は新卒一括採用を基本としているため,新卒で就職の機会を逃してしまうと,その後良い仕事を見つけることが難しくなる.

そしてリーマンショック後のように景気が悪くなると,非正規雇用の人材から職を失う.たとえ正規雇用の社員よりも有能であったとしても.

日本型雇用も徐々に変わっていくだろう.時代の流れよりもゆっくりと.私は,大企業の外でできることを模索しようと思う.

 

(4)退職後

日本の大企業という組織に対する不満がきっかけで退職を考えるようになったのだから,日本の大企業に再就職はしないつもりだ.目標を共有できるベンチャー企業や,海外を視野に入れ再就職先を探す,あるいは起業する,といった道もあるだろう.どういう道に進むにしても,手に職を付けておかなければならない. 様々な仕事をし,いろいろなソフトウェアを創ってスキルを磨きつつ,模索していく予定だ.

今までは組込みシステムの仕事 に携わってきた.これからはWebサービス等の開発をしたいと思っている.大企業のサラリーマン,日本のサラリーマンという既存の枠組みに囚われずに働いていくことが現在の目標だ.

 

(5) おわりに

「外のほうが自分でしかできないことに挑戦できる,外の方がおもしろい」という信念で退職を決意した.A社を辞めると知人に伝えるとほぼ確実に,「どこの会社に行くの? B社? C社?」と日本の大企業の名前をいくつか挙げて聞かれる.これは「会社を辞める=日本の大企業から日本の大企業に転職」という先入観から来ていると思う.

中学,高校から進学校に入学し,一流の大学に入って,大企業,国家公務員等の仕事に就く,という道を選択する人の割合が日本は高すぎると思う.そして,一度入社すると,周囲の人と違う人生に舵を切ることに不安を覚え,多くの人はそのまま定年を迎える.

せっかく明治以降は仕事を自由に選べる世の中になったのだから,状況に応じてそのとき自分が最善だと思う道を選び,もっと自由な生き方をしても良いのではないか思う.そのためには手に職を付けておかなければならない.

 

 

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